【畑から、都農を知る vol.5】 薄田徹さん・里実さん 受け継がれる すすきださんちの千切り大根づくり
保存性が高く、調理も簡単。
無添加・無着色の自然食品で、生の大根に比べて食物繊維やカルシウム、カリウムなどの栄養素がより多く含まれている千切り(切り干し)大根。
ここ宮崎県が、全国の千切り大根の大部分を生産している一大産地であることをご存知でしょうか。
「千切り大根」は関西以西の呼び名で、関東では「切り干し大根」と呼ばれています。
都農町にも千切り大根を作る農家さんは多く、冬になると、千切り大根を寒風にさらし天日干しするための干し棚が町内各所に並びます。その光景は、都農の冬の風物詩とも言えるものです。
12月下旬、そんな千切り大根を夫婦で生産している、薄田(すすきだ)徹さん・里実さんにお話を伺いました。
■農園のはじまり
「薄田 (すすきだ)さん」という苗字は、長崎県・南島原地方に比較的多く見られる名前です。
徹さんの父・孝一さんは島原出身で、「本家が農家で、玉ねぎとたばこをつくっちょった。」と徹さんは話します。
代々、農業が身近にある家庭環境で育ちました。
徹さんの母・泰子さんは都農町の出身。
孝一さんは泰子さんとの結婚を機に都農へ移り住み、別の仕事をしながら兼業で農業をスタート。町内の心見地区にあった畑や、周囲から借りた畑で一から農園を築いていきました。
寡黙で仕事一筋だった孝一さんを、地域の人たちは信頼し、「この人なら」と畑を貸してくれたそうです。
そうした積み重ねが、現在の農園の基盤になっています。
現在は、孝一さん、泰子さん、徹さん、里実さんの4人で千切り大根、ニラ、白ネギ、玉ねぎ、米を栽培。
道の駅つの、Aコープ都農店、農協へ出荷し、自宅前の直売所(現在休止中)でも販売していて、インターネット販売サイト「ポケットマルシェ」でも千切り大根の注文を受けています。
点在する畑をすべて合わせると、約4町5反(45,000㎡)。
サッカーコート約6面分、東京ドーム1個分に相当する広さです。
< 収穫カレンダー >
4~6月:玉ねぎ・ニラ
8月:米
10~11月:ニラ(露地)
12月:白ネギ
12~3月:ニラ(ハウス)・大根
一年を通して、畑と向き合う日々が続きます。


■心見地区
薄田さんも所属するJA尾鈴の「ニラ部会」には、都農町と川南町を合わせて約23軒の農家があります。そのうちおよそ10軒が心見地区です。
その背景には、泰子さんの存在がありました。
農協の理事を務めていたこともあり、農家仲間とのつながりも深く、
「ニラはいいよ」と勧めたことで、主軸作物をニラに変えた農家も少なくありません。
里実さんは、
「『昔キャベツをやってたけど、ニラに変えたとよ。あんたのお義母さんに勧められて!』って言われる。」と話します。
かつてはメロン栽培が盛んだった心見地区。
今も数軒が作り続け、メロンや野菜がご近所同士で行き交います。
新鮮な作物を分け合う日常。
そこには、農の町・都農町ならではの温かなつながりがあります。
里実さんは、心見地区の農家さんたちへの尊敬も口にします。
「千切り大根って、ほんと重労働やわ。
私たちは、まだ若い方よ。
心見にはね、千切りしちょる90代のばあちゃんもいるとよ。」
機械に重い大根を入れ、千切りされた大根を均一に並べる作業を、黙々と続ける高齢の方もいると言います。
寒さの中で、長時間立ち続けるその姿は、簡単に真似できるものではありません。
「それ見たらね、『何食べちょるっちゃろ!?』って思うわ。ほんと、元気!」
笑いながらも、その言葉には深いリスペクトが込められています。
世代を超えて受け継がれる千切り大根づくり。
心見地区には、農とともに生きてきた人の力強さが、今も息づいています。
■千切り大根づくりの現場から
現在、千切り大根の生産を担当しているのは、徹さんと里実さん。
元となる大根は1本約5kgから8kgを超えるものも。乾燥させると重さは約1割になりますが、それでも昨年の生産量は約4tに及びました。
千切り大根は、大根づくりから始まり、収穫、洗浄、干し棚づくり、千切り・天日干し、巻き といった多くの工程があります。






「大工仕事みたいに工程が多いっちゃわ!」
そう話す里実さんの声が、少し大きくなるほど、特に重労働で大変なのが、干し棚づくりです。
トラクターで棚を立てる部分の地面をやわらかくし、支柱を立て、金具で固定。
立てる支柱は23本、固定する金具は140本も使います。
大根をかけたときにネットが沈まないよう横に5本の紐を張り、その上に青いネットを強く引っ張りながら張っていきます。
お子さんやその友だちが遊びに来たときに棒を運ぶなどの手伝いをしてもらうこともありますが、ほとんど夫婦2人で、約2週間かけて7つもの干し棚を作ります。
ほぼすべてが手作業で、時間も体力も必要。
それでも、この棚があるからこそ、寒風にさらされたおいしい千切り大根が生まれます。 手間を惜しまない作業が、味につながっています。


■天日干しは、風を読む仕事
「風通しが一番大事やね。土地が高いところの方がいいよね。周りに何もないところ。
だいたい棚の向きを西に向けてるっちゃわ。」
天日干しの条件について、徹さんはそう話します。
気温と湿度が低く、風がある日が、千切り大根づくりには最適。
北風が多い都農町では、海手側と山手側で、乾く時間に差があると二人は言います。
徹さん「山手が2日で乾いたら、こっちの海手は3日。プラス半日やね。」
里実さんも続けます。
「朝は湿気を含んじょるから、柔らかくて朝は巻けんとよ。
昼前くらいに“ぱきっ”ってなって、風と日(陽)があれば、夕方には巻ける。」
干す場所、風向き、気温、湿度。 自然と向き合い、その変化を読み取りながら、経験を頼りに判断する日々が続きます。




■農業の道へ
都農町出身の徹さんと、宮崎市出身の里実さん。
徹さんは大手電機メーカー、里実さんは保育園に勤めていた頃に出会い、結婚。
お子さんにも恵まれ、宮崎市内で暮らしていました。
転機となったのは、徹さんの会社での早期退職者募集と、実家の農業の跡継ぎの話。
タイミングが重なり、2011年に都農町へ戻って本格的に農業を始めました。
会社員から農家へ。
生活も仕事も大きく変わりましたが、気づけばもうすぐ15年が経とうとしています。
■家族それぞれが役割を持ち、支え合いながら続ける農作業
現在の作業分担は、
孝一さん・泰子さんがニラ、
徹さんと里実さんが千切り大根、白ネギ、玉ねぎ、米を担当しています。
「玉ねぎは義父と旦那が植えて、私が出荷。
ニラはお義父さんと旦那が収穫したら、みんなで1日かけて束ねて箱詰め、とかっていろいろ分担してるとよ。
ニラのハウスの時期は多いと1,000束、少なくても500束以上は作るから、ニラをきれいにして束ねる従業員さんもいる。
なかなか大変やろ。『大変なところに嫁いだね』ってよく言われる。(笑)」
そう笑いながら話す里実さん。
その言葉の裏には、日々の忙しさと、それを当たり前にこなす家族の姿があります。
■作物すべてに通じる考え方
春に収穫される薄田さんの玉ねぎは、「大きくて甘い」と評判です。
「あれね、たまたま。(笑)
玉ねぎの畑は、今年2反。相当やかいね。びっしり埋まっちょっから。」
と話す徹さんに対し、里実さんはこう続けます。
「お義父さんのこだわりがすごいとよ。
長崎の良い玉ねぎを作っている親戚に、どの液肥がいいかまで聞いて、少し高くても良いものを使う。
金額聞いてびっくりしたけど、使い方も工夫して『だから甘いんやね』って納得した。」
千切り大根、ニラ、玉ねぎ、白ネギ、米。
作物は違っても、「手をかけるところは惜しまない」という姿勢は共通しています。
農業は、思い通りにいかないことの連続です。
今年は、白ネギの栽培がうまくいきませんでした。
梅雨明けが早く、作業のタイミングが重なったことで、植え付けが遅れ、その後の豪雨で流されてしまった苗もありました。
それでも、失敗を「次につなげる材料」として受け止め、また畑に向かう。
その積み重ねが、農家としての経験値になっていきます。
■「すすきださんちの新鮮野菜」
売り場に並ぶ薄田さんの野菜には、ひと目でわかる特徴があります。
それが、「すすきださんちの新鮮野菜」と書かれたイラスト入りのシール。
徹さんと里実さんが農業を始めて間もない頃、お店に野菜を出荷しようとした際の
「名前を間違われるとよ!」
という泰子さんの一言が、シールづくりのきっかけでした。
「『薄田泰子』なのに、別の泰子さんの野菜を『あんたの買ったとよ』って言われた(笑)」
という話を聞いた里実さん。
「ああそっか。『すすきだ』って読まれんから、シールを作ろう!」とひらめきました。
名前を覚えてもらうこと、間違えられないこと。
そのために生まれたシールは、お客さんの目に留まり、今では“薄田さんの野菜”の顔になりました。
一つの工夫が、認知と信頼につながっています。
Instagram @susukidasanchiでの発信も、農業の一部。
他県の農家とつながり、どうやったら直売所で売れるかといった話で盛り上がったり、ニラを束ねるのにカラフルな輪ゴムを使用するといいともらったアドバイスを実践したりと、新しい視点を得る場にもなっています。


■農業の楽しさ
都農に来るまでは想像していなかった農業の仕事。
千切り大根づくりは工程が多く、決して楽な作業ではありません。
それでも、外で体を動かし、自然の中で過ごす時間が、里実さんにとっては心地よい時間です。
義父母の提案がきっかけで始めた直売所も、「自分のペースで、自分が楽しいやり方ができている」と話します。
「直売所は反応が見える。
売れたら嬉しいし、残ったらどうしようって考える。
どうやったら売れるかなって考えるのも、私は好き。」
売れる喜び、残る悔しさ。
それも含めて、農業の楽しさなのだと感じました。
2022年2月からはじめたインターネット販売「ポケットマルシェ」では、リピーターもつき、遠方の人が薄田さんの千切り大根を待ってくれることが、大きな励みになっています。
■畑から、都農を知る
薄田さん夫婦のお話から見えてくるのは、
作物を育てることだけでなく、
土地を知り、人とつながり、暮らしをつくる農業の姿です。
寒風にさらされ、時間をかけて仕上げられる千切り大根。
その一袋には、都農の風土と、人の手と、想いが詰まっています。
畑から、都農を知る。
薄田さんの千切り大根は、今日も静かに、都農の暮らしを伝え続けています。


書籍『みんなが喜ぶ ワインのおかず』では、千切り大根を使った「千切り大根と豚肉のシュウマイ」、「きゅうりと千切り大根と赤紫蘇のサラダ」のレシピを紹介しています。
都農町内のほか、各種オンラインストアや電子書籍 Amazon Kindle版でもお楽しみいただけます。
ぜひご家庭でも、都農の味とワインのマリアージュをお楽しみください。


これからも【畑から、都農を知る】シリーズを通して、食材の背景にある人と物語をお届けしていきます。
